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6狙われた看板娘


 次の日の早朝のことである。源吾は、兵助、一郎太と一緒に店に向かった。三人で奮闘して書き上げた手紙をお雪に渡すためだ。

「早く、早く!」
 源吾は駆け足で、店に向かう。
その後を、いやいやながら、若い二人はついていく。

兵助はぶつぶつと言いながら、一郎太の目は半分閉じている有様である。

「夕べは、徹夜。しかも、今日は、陽も昇らないような、こんな朝っぱらから、起こされて、もう、一体なんなんですか!一人で行けばいいじゃないですか!」

「その、熱意を、仕事に生かしてくださいよ。昨日の昼間の見張りのときでも、源吾さんは、僕達に任せて、一人、大いびきかいてましたよね。まったくもう!」

「あ、ごめんね、ごめんね。ちょっと眠気がしてね。で、この、お礼は、ほらほら、このお駒さんちの弁当、いっとう、高い奴おごるから、ね、ね。で、これが首尾よく行って、先じゃ、俺、もしかして、商家の若旦那ってことになりにでもしたら、もう、絶対、いろんなものをおごっちゃうからね」

「そんな先の妄想にまで、付き合いきれませんよ」

しかし、店の中に入った瞬間、三人は慌てた。

お雪が倒れていたのだ。
源吾は、へなへなとその場に崩れ落ちた。

「お雪ちゃんが死んでる。なんで、なんでだよ」

一郎太と、兵助は冷静だった。
駆け寄った一郎太が、顔を近づける。兵助も脈をとった。

「源吾さん、息があります!まだ生きてます!」
「お雪ちゃん!」

「よし、弥生先生のところへ、運ぼう!」

7狙われた看板娘

7

 お雪は、弥生堂で絶対安静となった。

 仏田八兵衛も、知らせを聞いて、急ぎ現場へ到着した。
お駒が、不安そうにしていたが、八兵衛の顔を見て、少し、ほっとした笑みをもらした。

八兵衛は、台の下に、紙が落ちていることに気づいた。
その紙には、『しおり』と書かれていた。

「『しおり』……、って読めるな。人の名前だろうか?お駒、知っているかい?」
「いいえ、心当たりは何もありません」

「そうかい。ほかに、何か変わったことはないかい?」
「いえ、別にありません」

しかし、八兵衛は、お駒が、もう少し何か言いたげな様子を見て不審に思った。
「おや、何か言いてぇことがあるみたいだな。」
「いいえ、何でもないんです」

「そうだ、この店にはもう一人、看板娘が居たろう?あの子からも話を聞きたいんだが」

八兵衛は、おみつに事情を聞いたが、おみつは、「私は何も知りません」と、かたくなに口をつぐむだけだった。


 
 数日後のことである。

「仏の旦那ーーー!」

町を探索していた八兵衛に、岡っ引きの徳松があわてて駆け寄ってきた。

お雪の意識が戻ったという。しかし、お雪は、その時の記憶をなくしてしまっていた。

「おもい……だせ…ません……」
おゆきは、床に伏せったままで、小さくあえいだ。八兵衛の問いかけに首を振るのも苦痛のようであった。

源吾は、そんなお雪に執拗に食い下がった。
「何でもいいんだ。小さなことでもいいんだ。何か、言いたいことはないかい?思い出すことはないかい?お雪ちゃんをこんな目にあわせた奴をとっつかまえたいんだ」

「うう、あ、あたまが…いた……い」
お雪は、苦しげにうめいた。

お雪の声を聞いて、弥生があわてて止めに入った。
「下手人をつかまえるのも大事だけど、今は、お雪さんの体を治すことがいちばん大事なのよ!今日は帰ってください!」

源吾は、「畜生!絶対下手人をあげてやる」と、舌打ちし、駆け出していった。

テーマ : 時代劇
ジャンル : テレビ・ラジオ

8狙われた看板娘


 数日がたち、源吾は、一人の女を奉行所に連れてきていた。
その女は、以前、お雪に水をかけられて、憤慨していた女だった。
名を中里しおりといった。

「これを見ろ!」
と、源吾は、お雪が書いた紙を見せた。
「しおりと書いているじゃないか!お前がやったんだろ!」

磯貝総十郎も、しおりを攻め立てた。
「お雪は、今、記憶をなくしているが、お雪が思い出したらすべてわかることなんだぞ!」

だが、しおりは男二人の尋問にひるむことはなかった。

「ええ、思い出していただけると、わかると思います。私には何も関係ないことが、はっきりと、わかると思います!」

そんな二人の尋問を、花田孫右衛門は黙ってみている。

 そこへ、いつもの通り、ぬぅっと青山が顔を出した。そして、何も言わず、しおりの顔をじっと見つめた。何かを思い出すかのように……。

しおりの方が先に「あっ」と声をあげた。
「青山……久蔵……」
「しおりかぁ。しおり、大きくなったなぁ。昔はこんなに小っちゃかったのに」
と、青山は、珍しく笑みを浮かべた。
が、しおりは、「昔にしても、それほど小さくはありません」と、そっぽを向いた。

「え?お知りあいですか?」
孫右衛門が、二人の顔を見比べた。
「ああ、いとこってことになるかな」


兵助と一郎太の二人は、しおりの証言を裏づけをとって帰ってきた。
「その女と、お雪は面識はありません」
「その日は、一切外に出ることはなかったそうです。しかし、なにぶん家族の証言ですが…」

総十郎は、二人の言葉を途中でさえぎった。

「ええ?!あ、青山様のご親戚筋の方だったとは、いやはや、そんなお人が下手人であるはずがございません。おい、源吾!もっとちゃんと調べて来い!」
前言撤回の豹変ぶりはいつもの通りである。
そんな総十郎を見て、源吾は、口をつぐみ憮然とした。

青山は、そんな総十郎の態度を鼻で笑った。
「おいらの親戚だからといって、罪を犯してないとは言い切れないぜ」
「私は、何もしていません!」

しおりの証言の裏づけはとれなかったが、確たる証拠もなかったため、しおりは、放免されることになった。 ほっとした顔もみせず、しおりは悔しさをにじませた。

「見立て違いもたいがいにしてください。こんなできの悪い方たちが、江戸の町を守っているなんて信じられないわ。私が、下手人を捕まえて、ここに連れてきてみせます!自分に注がれた汚名は自らの手で返上してみせます」

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9狙われた看板娘



 その翌日。

 しおりの怒りは、おさまらず、いらいらしていた。稽古先に向かう途中のことだった。 目つきの悪い浪人者たち数人を凝視していたせいで、しおりは、からまれてしまった。

「なんだい姉ちゃん、なんか、言いたいことでもあるのかい?」
「別に、あなたたちに話すことなんてないわ」
「いや、その目は何か、言いたそうな目だね。そんな怖い顔しないで、俺達と遊ばねえかい?」

「触らないで!」
思わず、腰の竹刀を振りかざそうとしたが、その腕を取るものがいた。
青山久蔵だった。

「昼間っから、何騒いでるんだぃ。でも、暇つぶしにはちょうどいい。おいらが相手になるぜ」

徳利をぶらさげて酔っ払いの様相にみえた青山を、組み易しとみて、浪人たちは、青山に向かってきた。青山は、浪人たちを素手で打ちのめした。浪人たちは、すぐに引き下がった。

「あの程度の男達くらい、私にでも片付けられましたのに」
「威勢のいいこったなぁ。それにしても、そんな稽古着じゃなく、ちったぁ、娘らしい格好すれば、お前さんもそれなりにきれいにみえるのに。ほら、馬子にも衣装っていうじゃないか」

しおりは、最後まで聞かずに辞去した。そんなしおりの後ろ姿を、肩をすくめて見送る青山であった。

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10狙われた看板娘

仏田八兵衛は、再度、おみつに話を聞きに行こうと思った。

「じゃあ、行って来るよ」と、いつものように、水原弥生と一緒に食事をとったあとで挨拶し、出かけようとしていた。

この二人、同居はしているものの、夫婦ではない。

事の成り行きは、水原弥生の夫の死に関わっていた。その事件の真相の鍵を握っていたのは、八兵衛の女房であった。家出した八兵衛の女房・お妙が、八兵衛の元に戻って来るのを見張るために、八兵衛の家に転がりこんできた。というのが始まりだった。

その夫の仇討ち事件は、数年前に解決した。そして、一緒に過ごすうちに、お互い、心を寄せるようになっていった。しかし、二人は、素直になれずに、弥生が居候という形のまま、現在に至っていたのであった。

弥生は、何か言いたげだったが、八兵衛は、それに気がつかなかった。弥生は、思い切って口にした。

「八兵衛……さん、あの、今日も……、あの事件ね」
「ああ、そうだよ。あ、お雪の記憶戻ったかい?」

お雪の具合は落ち着いていた。頭の痛みもとれ回復のきざしがみえてきたが、記憶は戻らないままだった。弥生は、お雪の他に、ちょっと気になることがあったのだ。

「……お駒さんっていう人と、今日も会うの?」
「あ、今日は、もう一回、もう一人の看板娘から話を聞こうと思ってる。あ、お駒からも、いろいろもうちょっと話を聞こうと思ってるよ」
「そ、そうなのね。そうよね。いろいろ話聞かなきゃ、いけないもんね。は、早く解決するためには、たくさん、話、聞かなきゃいけないわよね」

「ん?どうかしたのかい?弥生さん、なんか、お駒に用かい?あ、弁当だね!あそこの弁当、美味いんだよ!さすが、目が高いよ!弥生さん!わかった!弥生さんの分、買ってきてあげるよ。大丈夫だよ、お駒、事件があったからって、仕事の手を抜くような女じゃないし!」

 八兵衛には、女心というものがわかっていなかった。お駒が以前から八兵衛にほれていたという噂を聞いて、弥生の心は少し揺れていたのであった。でも、そのことを面と向かって聞けない弥生である。八兵衛は、言うだけ言うと弥生の次の言葉を待たずに出て行った。

弥生は、その後ろ姿を見送って、「八兵衛のばか」と小さくつぶやくのが精一杯だった。

弥生がお駒の話を聞いたのは青山からだった。お駒ことが気になってしまった弥生は、うっかりして青山から八兵衛の言付けを言い忘れてしまっていた。

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ジャンル : テレビ・ラジオ

プロフィール

ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

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