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その六 少年と盗賊

八丁堀の七人 少年と盗賊

その六

「あー、怖ぇ」
兵助が口を開いた。
「怒鳴られるより、あの沈黙。たまんなかったあ」
松井兵助は、正座でしびれた足をさすった。

「なんか怒鳴られたほうが、ほっとしましたね」
一郎太も足を崩した。

「磯貝さんが、このたれ込みは、間違いない、大丈夫っていうから」
源吾が口を尖らす。
「何!俺のせいにするのか!だいたい、どんな手がかりでも逃すな!っていったのは、青山様なんだぞ!」
磯貝は、源吾に対して憤ったが、緊張が、一気にとけて涙声になっていた。

「まあまあ、皆で判断して乗り込んだこと、そしてそれは、失敗だったんです。失敗を誰かのせいにしてもしょうがありません」
仏田八兵衛が静かに言った。
「誰って俺?」
絡み癖のある磯貝がねちねち言いそうになった。
「青山様含めた全員ですよ」
と、花田孫右衛門が取りなし、磯貝も黙った。

「上方から手配書さえくれば」
と、孫右衛門がため息をついた。

「ちきしょう、とっつかまえてやる」
兵助の言葉に、皆黙って頷いた。

小説 八丁堀の七人



その七 少年と盗賊

八丁堀の七人 少年と盗賊

その七

亀吉は、また団子屋の前で様子を伺っていた。前とは違う店である。
店の主人が奥に引っ込んだ隙に、裏口の小窓から、団子に手を伸ばした。
が、団子を掴む前にその手首を握られてしまった。一郎太だった。
一郎太はそのままで
「親父、団子二つな」
と、注文し、団子を一本頬張ると、もう一本は、亀吉に渡した。
「手、離せよ」
「この前みたいに、逃げられたら困るからなあ」
「逃げないよ。追いかけられてもないし、団子も取ってないし」
亀吉は不敵な笑みを浮かべた。
ただ、団子には口をつけなかった。
一郎太も握った手を離さなかった。

「店かえたのに、何故?って顔してるな」
「何のこと?」
とぼけたが、あて推量にしろ、その理由が知りたかった。

「なあに、簡単なこと。道沿いに食い物が出てること、主人はひとり、度々奥に引っ込んだりする耳の遠い年寄りなこと。人通りの少ない時刻、物陰が多い角がある所。裏に、小窓があること。」
「ふっ、盗む気持ちになって考えたんだな」
そう言ってから、亀吉は、しまったと思ったが、一郎太は、そんな言葉には気づかないふりで、店主に声をかけ、店の中に入っていく。

「おい、こっちに来てみな」
一郎太は、亀吉を引っ張った。
「なんだよ。おいら、何にもしてないのに。謝ることもないよ」

そこでは、年寄りの店主が、団子の仕込みをするところだった。
慣れた手つきで、団子を丸めていた。
腰を屈めているのが、きつそうにみえた。
一郎太は、何も言わず、眺めているだけだったが、その背中に向けて小さくつぶやいた。
「私は、商家の出なんだ。だから大なり小なり、商いの大変さがわかるんだ」
少年も殊勝な顔で黙ってみていた。

「お兄ちゃん、どうしたの?」
鶴吉が通りから声をかけてきた。そして、兄が手にしている団子を目にするなり、かけよってきた。
「お団子だ!」
兄は団子を弟にやり、あわてて、一郎太を指差した。
「この人が買ってくれたんだ。鶴吉、早く行け。こっから出るぞ」
「ありがとう」
「いいから、ほら!」
二人は、店を出た。
「弟にやるつもりでお前は食べなかったんだな。あ、じゃあ、お前、えっと……」
「亀吉」
亀吉は、渋々、名乗った。

亀吉に、再び、団子を差し出し、一郎太は微笑んだ。
終始笑顔な一郎太に亀吉は戸惑うばかりだった。
が、また脱兎のごとく走って行った。

その八 少年と盗賊

八丁堀の七人 少年と盗賊

その八

みなしごの兄弟は、町外れの古寺で寝泊まりしていた。
朝の冷え込みは厳しく、兄弟たちは、寒さに震えたが、日が昇るとともに寒さがゆるんだ。
日向ぼっこをしながら、ぼうっとしていた二人に可愛い声が聞こえてきた。

「いちぢく、にんじん、さんしょに しいたけ ごぼうに むぎまんま ななくさ や-つめ きゅうりに とんがらしぃ 」

大五郎が、棒を振り回しながら、二人の前に現れた。

「あ、お前は!この前は、ありがとな。お前、名前は?」

「大五郎」

「おいらは、亀吉。で、弟の鶴吉」
鶴吉は、ぺこりと頭を下げた。
「おめでたい名前だろ。まったくめでたくねえのにな。こんな名前つけた親は、とうに死んじゃっていない。親に文句も言えないさ」
亀吉は、石を投げた。

「お兄ちゃん、大五郎ちゃんと遊んでいい?」
「ダメだ。今日は、天気がいいから釣りに行くぞ。まずは、食い物だ。大五郎、悪いが、おいらたち行くから」

大五郎は、それを聞くなり、辺りを見回した。枝先にひっかかっていた破れた凧を取ってきた。

「大五郎ちゃん、遊べないって。それに、そんな破れた凧じゃ、上がらないよ」
と、鶴吉は、悲しそうに言ったが、大五郎の目的は別だった。

大五郎は、棒に、歯で切った凧の糸をつけた。そして、見る間に三本作ってみせた。 

「はい!」
と、二人に二本を差し出した。
二人は、目を丸くして感心した。
「わかったよ。大五郎、お前もついてこいよ。一緒に釣りに行こう」

沼での釣りは、大成功だった。
大五郎は、二人よりもたくさん釣った。
鶴吉が沼に落ち、浅瀬なのに溺れそうになったが、鶴吉を大五郎は助け起こした。
いつもなら、泣きわめく鶴吉だが、泣きべそをかくにとどまり、亀吉は、ほっとしたのだった。

魚を焼く時にも、大五郎の火起こしの慣れた手つきに、二人は驚嘆の声をあげた。

「お前、武士の子だろ?親に色々やってもらえてるんじゃないのかい?自分でなんでも出来るんだな。すげえな」

ぱちり。
火の粉が、鶴吉の顔に飛んだ。
鶴吉は顔をぬぐったら、汚れてしまった。

大五郎は、持っていた手拭いを、水桶に浸し、そっと鶴吉の頬を拭いてやった。

「はは、大五郎のほうが小さいのに、大五郎のほうが、兄ちゃんみたいだぞ」

「えー、そんなことないよ。おいらは、ちょっとだけ、泣き虫なだけだよ。あー大五郎ちゃんも顔が汚れてるよ」
二人のじゃれあいを目にしながら、亀吉は、ふざけて言った。

「大五郎、これからも鶴吉が、泣かないように、助けておくれよな。守ってくれよな」

「えー、おいらが、大五郎ちゃんを守ってあげるんだよ」

「そうか、じゃあ、おいらも、守ってもらおう。頼むぞ、大五郎、鶴吉!」

三人の歓声が、小春日和の野にこだました。

その九 少年と盗賊

八丁堀の七人 少年と盗賊

その九

大五郎と兄弟たちは、おなかもふくらみ、祭り見物に町に出た。何も買えやしなかったが、華やかなその雰囲気を三人とも楽しんでいた。

芝居小屋もあった。もちろん芝居を見物も出来るわけでもなかったが、幟のあざやかさに、三人は顔を紅潮させ、幟のはためくのを首がだるくなるまで眺めていた。

亀吉は、これからの宿は、ここにしようと、決めた。
「鶴吉、今夜はここに潜り込むぞ。きっと、芝居の衣装とかあるはず。お堂よりかは、暖ったかいはずだ」

幟を見上げていた大五郎は、芝居小屋から出てきた男たちと、互いに気がつかず、ぶつかり転んでしまった。

「なんだ、ちびすけ、邪魔だ、邪魔だ」
「何をうろちょろしてるんだ。見物する金がないんなら、帰った、帰った」

芝居小屋の連中にしては、目付きの悪い
四、五人の男たち。大五郎は、きつい目付きで、男たちの背中を見ながら立ち上がった。

「大五郎ちゃん、大丈夫?」
鶴吉が駆けより、着物の泥を払ってやった。大五郎は「大丈夫」と、答えた。

「おや?大五郎」
八兵衛と源吾だった。
「こんなところで、遊んでるのかい」
「うん、釣りもした!ね!」
「ね!」
大五郎は快活に答え、鶴吉と顔を見合せた。

「だめよ、だめ、だめー。大五郎様、こんな連中とつきあっちゃあ。お前ら、この子は、北町奉行所与力、青山久蔵様の子だよ」
と、源吾は、大五郎にも兄弟にも釘をさした。
「え!与力の!」
兄弟は二人とも驚いた。
亀吉は、そっと唇を噛みしめ、自分たちと大五郎を見比べた。

……こいつは、やっぱりおいらたちとは違うんだ。食べるものも着るものもある。家に帰れば、父ちゃん母ちゃん、そして暖かい布団で、寝るんだ。

亀吉には、辺りの色がさっとさめるような心地がした。

「そんなもんは、関係ねえよ。子どもは子どもだ。青山様だって、大五郎が飯屋の手伝いするのを認めてる。市之丞様が医学の道に進みなさるのを許してる。町民だ、武家の子だってのは、気になさらない。いや、そう差別することを、きっとお怒りになるはずだよ。三人とも、なあ、気にせず、遊びなよ」

八兵衛の言葉に、鶴吉だけが、「うん」とうなずいた。

大五郎も、表情が固くなった。
源吾の言葉に同意したわけではなかった。八兵衛の言葉が耳に届いてないわけでもなかった。

亀吉の表情が変わったことに気づいたからである。

「狼の子」

そう言われて、人々の顔が豹変するのを嫌と言うほど、みてきた大五郎なのである。
「青山の子」
また、同じことが起った。と、思ったのである。

大五郎のことは露とは知らない亀吉である。もちろん、大五郎にも、亀吉の気持ちを推し量ることは無理であった。

「行こう、鶴吉。さよなら、大五郎」
「また、遊ぼうね、大五郎ちゃん!」

大五郎は、二人を無表情で見送った。

「まあ、大五郎も元々は、こいつらと変わんないんだけど!あ、ごめんね、ごめんねえ、大五郎」
「こら、源吾!よさないか」
あっけらかんと言う源吾をたしなめる八兵衛であった。


与力、青山久蔵の子。

という言葉に、芝居小屋の男たちも、表情を変えた。

だが、その顔色が変わったことまでは、誰も気がつかなかった。


小説 八丁堀の七人

その十 少年と盗賊

八丁堀の七人 少年と盗賊

その十
 
兄弟は、祭りから離れて、あてもなく、町を歩いていた。一郎太は、二人を見つけて声をかけた。

「おい!亀吉、鶴吉、元気ないな。腹減ってるのか?」
鶴吉が、
「団子のおじちゃんだ!」
と、叫んだ。
「おい、おい、団子のおじちゃんはないだろう。せめて団子のお兄ちゃんだろ」
一郎太は苦笑して、古川一郎太、と、名乗った。
一郎太は、今日は孫右衛門と組んでの見廻りであった。孫右衛門に一礼して、二人に近づいた。

「今日は、腹減ってないよ。でも、ああ、なんかつまんない。なんで、おいらたちは、なんにもないんだろう。せめて、金があればなあ」
と、亀吉がため息をついた
「稼いでみろよ。そうだ、私が働く場所探してやろう」
「こんなみなしご雇ってもらえないよ」
「そんなことない。きっと亀吉にもできる仕事があるはずだ。私があたってやるよ」
「仕事か……」

亀吉は不意に問うた。

「ねえ、一郎太さんは商家の出だ。って言ってたよね。町民なのに、ねえ、なんで、侍になれたの?」
「それは……」
一郎太は、言いよどんだ。
「親が同心株主を買ってくれたんだ。それで同心になれた……」

「ちっ、やっぱり金か!親がお金があったから、同心という仕事があるんだ。商いして稼ぐわけでもなく、親のお金で同心やって、それで、おいらには、働けって十手振りかざして説教かい!偉そうに言うなよ!ちっ!」

吐き捨てるように亀吉は言って、鶴吉を引っ張って、一郎太の前から離れた。

痛烈な一言に一郎太は傷き、思わず、兄弟たちの馴れ初めを孫右衛門に話した。 

孫右衛門は、子だくさんで、子ども好きではあった。しかし、自分の子で手一杯であり、二人のようなみなしごをせつない目で見ることは、一朗太よりも多かった。

「私は、力になってやりたかったんです。でも、やっぱり私では無理だったんでしょうか」

孫右衛門は、落ち込む一郎太をそっと諭した。

「お前の優しさは、何もないあの子たちにとって、一時のもの。それは、かえって酷かもしれないさ。あの子たちは、結局は、おのれの力で切り開いて行くしかないんだよ」

孫右衛門は、一郎太の肩を叩いた。

「子どもたちも心配だろうが、私たちにはやることがたくさんあります。まず、やることは、錠前破りを捕まえることです。さあ、探索の続きです」

一朗太は、はっとして、懐の十手を握りしめた。

小説 八丁堀の七人
プロフィール

ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

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