スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

その六 兵助、怒りの鉄拳!

その六

その頃、八兵衛は、弥生堂にいた。
誠之助の遺体は、八兵衛の機転で、水原弥生のところに一旦預けたのだった。

水原弥生は、青山久蔵への勘違いの恨みを持っていた。そして、八兵衛を監視するべく、八兵衛の家に転がり込んだのだった。しかし、誤解が解けた後も、同居が続いていた。
骨接ぎが専門の弥生だが、近隣の者からも「弥生先生、弥生先生」と頼られ慕われ、お産もこなす弥生であった。
居候ではあったが、「弥生堂」の看板は八兵衛の表札よりも大きかった。そのことからも、弥生のたくましさが伺えることだった。

弥生堂。
そこには、もう一人の頼もしい青年がいた。

長崎で医学を学んでいる市之丞が帰省していたのである。
市之丞は、青山久蔵の一人息子である。
青山の実家に寄るのもそこそこに、弥生のところに駆けつけたのである。

「これは、毒によるものです。毒を飲まされたためにこの斑点が出たのです。これは殴られたり、転んだりしてついたものではありません」
と、市之丞は言った。
「今、薬の勉強をしているのです。そこで、いろいろ学んでいます」
市之丞は、また、力を込めて言った。

「市之丞さまがいてくれて助かったわ。私にも、そうじゃないかと思ったけれどわからなかったもの」
弥生がためいきをついた。

「毒か……」
八兵衛も、また、深くため息をついた。
一体、誠之助は誰に毒を盛られたのだろうか……。と。

「おとっつあん」
と、襖が開いた。

おやいである。
「また、御奉行所に帰るんでしょ。おにぎり、こしらえておいたわ。少しおなかに入れていったら?弥生先生も、市之丞さまもどうぞ」
「そりゃあ、ありがてぇ。おやい、おめぇも、いろいろ忙しいのに、すまねぇな」

おやいは、ある事件をきっかけに、これまた八兵衛の元で居候しているのである。
おやいは、八兵衛を父親のように慕い、また、八兵衛もおやいのことを娘のように感じていた。

「ほんと、おやいは、気がきくねぇ」
八兵衛は、何の気なしにそう言ったが、弥生が少しむくれた。
「ええ、私は、気がききませんからねぇ」

八兵衛は目をむいた。ほおばっていた握り飯が吹き出そうになった。
「や、弥生さん、『おやいは気がきくねぇ』って言っただけだよ。別に、弥生さんが気がきかないって言ったわけじゃないのに……、何を怒ってるんだよ」
「怒ってません」
「怒ってるじゃないか」
「もう、さっさと、奉行所に行ってください」
「わ、わかったよ」

弥生はそっぽを向いた。
八兵衛をおやいと市之丞だけが見送った。

弥生もまた、おやいを娘のように感じていたが、八兵衛を慕う者として、おやいに、時々いらだったのだ。
他のものがみれば、それはすぐに、『嫉妬』と知れる感情であった。
しかし、弥生だけが、そのことには気づいていなかった。いや、気づいていても、弥生自身は認めたくない感情だった。



原作・Answer警視庁検証捜査官第5話「謎の墜落死!? 娘を二度失った母…!!」

その七 兵助、怒りの鉄拳!

その七

八兵衛は、奉行所に戻り報告した。
六人の目の色が変わった。

「毒……」
「毒のせいで、そんな色が浮かんだのでしたか!」
皆、口々に「毒」「毒」とつぶやいた。

「そういえば」と、孫衛右門がはっとした。
「証言を翻したのは薬売りの三吉だった。」

「薬と毒。お互い、真逆のものではあるが、気になるな……」
一郎太が考え込んだ。

「くそう、その薬売りを探します!!」
兵助の大声に、源吾が悲鳴をあげた。
「え~この広い江戸を?しかも、7年前のことだよ。その三吉って奴は、江戸にいないかもしれないじゃないか」

「兵助さん、私も行きます」
若い二人は率先して、同心部屋を出て行った。

青山は、今度は何も言わずに、源吾をぎろりと睨んだ。

「はい、はい、わかりました。行けばいいんでしょ。研ぎ師探しに、薬売り探し。行けばいいんでしょ……」
源吾の声は少し涙ぐんでいるようだった。
そして、青山を残し、六人は、探索へと出かけていったのだった。


しかし、探索は遅々として進まない。
誠之助の事件から、三日が経っていた。

兵助はあせっていた。語気が荒くなったと思えば、不意に沈んだりと、心が落ち着かなかった。
同心たちも、そんな兵助に気を遣い、あえて口をつぐんだ。

しかし、あまりに憔悴した兵助の顔を見て、八兵衛は声をかけずにはいられなかった。
「おい、兵助、昨日も寝てないんだろう。ちょっとは、家に帰って休んだらどうだ。」

「大丈夫です。八兵衛さん。叔父上を殺した下手人をあげるまでは、休んでなんかいられません」
「だが、なぁ、兵助、しっかり動くためにも、少しは休んだ方がいいよ。青山様には私がうまく言っておいてやるよ。だからな、兵助」
「ほんと、大丈夫です」
兵助は、青ざめた顔に少し笑顔を浮かべて言った。
「しかし、なぁ」
なおも止める八兵衛を振り切るようにして、兵助は、同心部屋を後にした。

その八 兵助、怒りの鉄拳!

その八

いろいろと訪ね歩いてみたものの、これといった手がかりはみつからなかった。
兵助は、心底疲れてしまい、一人、池のほとりで佇んでしまっていた。
「一体、何やってるんだ。しっかりしろ、俺!」
兵助は自分を鼓舞するように、両手で頬を叩いた。


「ちょっと来い、兵助」
非番なのか、青山がとくりを下げて、兵助の前にぶらりと現れた。
どこへ行くのかと思ったが、着いたところは、青山の屋敷であった。
「何ですか?青山様。私は、まだ、探索の途中です。青山様みたいに暇じゃないんですよ」
兵助は口を尖らせた。

「はっはっはっは」
青山は、豪快に笑った。
「とか、いいながら、ずいぶんと、たそがれてたじゃねぇか」
兵助は、図星を指されて、返す言葉がなかった。

「ちょっと、二日酔いでな。酒を抜くのを手伝ってくれないか」
青山は木刀を兵助の前に放ってよこした。
兵助は、黙って木刀を受け取り、構えた。

「かかってこい。兵助」
兵助は、何度も青山に向かったが、かわされるだけである。
そのうちに、きびしい一手が、兵助の肩に打ち込まれた。
そして、次々に、脛に、腕に、腹にと、食い込んだ。

……二日酔いとかいいながら、このおっさん、いつもながらに強い。
そういえば、六人で、稽古をつけてもらったときがあった。
しかし、誰一人として、青山に打ち込めた者はいなかった。


青山の屋敷を覗いた八兵衛はあわてた。

「な、何をしてるんです。青山様、兵助!あ、青山様!兵助はこのところの探索で疲れてるんです。
『休ませてやってくれ』と、お願いに来たところだったんですよ」

八兵衛は倒れた兵助をかばいながら、青山に懇願した。
「いいんです。八兵衛さん」
「ああ、どいてろよ。八兵衛」

とまどいながらも、八兵衛は黙って二人を見守った。

地面に膝をつき息のあがる兵助に、涼しい顔をして青山が言った。
「だらしがねえなぁ。頭も動かず、体も動かないんじゃ、どうしようもないな、兵助」
「まだまだです。青山様」

兵助は、その昔、叔父の誠之助とやっとうの稽古をしたことを思い出していた。

「兵助、お前は余計な力が入りすぎてるな。もっと、肩の力を抜け。」
「力を込めないと、強く打てません!」
誠之助は笑いながらも、兵助の相手をしてくれた。

不意に、青山の顔が誠之助に重なる。
兵助の体から、すっと力が抜けた。
青山の隙がちらっとみえた。
一歩踏み出し、木刀を打ち下ろす。
青山が、それを斜めに受けた。

「ふっ、やっと、体が動くようになったのかい。おいらも、汗が出て、酒が抜けてきたぜい。」
青山は、兵助に背を向け、自分は屋敷の方へ向かっていく。

一礼した兵助に、青山は、足だけを止め、振り向きもせずにつぶやいた。

「下手人を追ってるのは、お前だけじゃねぇ。一人であせってたって、どうしようもねえぜぇ。ちったぁ、仲間を……」

そう言いかけて、青山は口つぐんだ。
「いや、なんでもねぇ。汗かいたぜぃ。着替えてこよう」
飄々とした態度で、青山はさっさと屋敷の中へと入ってしまった。

兵助は、屋敷に向かってもう一度深く頭を下げ、そして、八兵衛に向かって笑顔をみせた。

「私は、まだまだ大丈夫です。若いですから」
その晴れ晴れとした顔をみて、八兵衛もうなづいた。

その九 兵助、怒りの鉄拳!

その九

七日が経った。

兵助と八兵衛は、薬屋や卸問屋をあたってみていた。
「三吉さんですか?そういう名の人は、心当たりはないですが…」
「さぁ?」
「知りませんねぇ」
誰も、三吉という人物を見知った者はいないようだった。

八兵衛は、ふと思いついてこんな問いをしてみた
「今、いちばん、勢いのある薬屋はどこだい?」
「はい、はい、それなら、菊屋さんですよ。生薬屋の」
「菊屋?」
「はい、7、8年前から、急に店をかまえて、大きくなったのです。店主の方は、たいそうな技の持ち主ですよ。作る薬は、大変よく効くそうでして、大人気だそうですよ」

「7年前かぁ……そうか、ありがとうな」


兵助たちが菊屋に出向くと、侍が数人、薄ら笑いを浮かべながら出てくるのに行き会った。
一人の侍は、同心姿の兵助をなめまわすように見つめた後、「ふん」と、鼻を鳴らした。
「なんだ?貴様、その態度は!」
いけすかないその態度に兵助は、思わず声が出たが、八兵衛は、それをなだめて止めた。
それを見た侍たちは、それ以上は何も言わず、二人に背を向けて立ち去った。


菊屋の主人は、物腰の柔らかな男であった。
名は「弥太郎」と言い、「三吉」ではなかった。

八兵衛は、当たり障りのない世間話をしながら、店を構えた時の様子を話してもらった。
よどみのない調子で店主・弥太郎は答えた。
しかし、その流暢な話し振りに、逆に八兵衛は不審に思った。

「今さっき出て行った、あのお侍は、誰だい?」
弥太郎の顔が、一瞬、こわばったようにみえた。
が、何事もなかったように、すぐさま笑顔になった。
「おなかを急にこわされたと言ってみえられただけです。お薬をお渡ししたら、お帰りになりましたよ。お名前などは、聞いてはおりませんが……」

「いや、何でもない。長居をしたな」
八兵衛と、兵助は、菊屋を後にした。


八兵衛が店の前を出ると、青山が店の前に着流しを来て立っていた。またしても非番のようである。

「お、その顔、何か掴んだかぃ?ちったあ、足だけでなく、頭をつかわなきゃなぁ。なぁ、八よぅ」
「いえ、まだ、何もわかったわけではありません。ただ、7年前から店が急に大きくなった。ってのが、ひっかるだけです」


「そうだ、青山様!今さっき出て行った、目つきの悪い侍たちに会いませんでしたか?」
兵助は、まだ、あの侍が気になるらしく、青山に尋ねた。

と、すぐにその名は知れた。


「ああ、あれか?あれは、佐川玄太夫のせがれ、佐川玄之進だ」

その十 兵助、怒りの鉄拳!

その十

佐川家の屋敷に、弥太郎は上がっていた。
「佐川さま、今までなりをひそめていた同心たちが、うろうろしておりますなぁ」
佐川は、黙って茶をすすっていた。
それをみて、弥太郎は、話題をかえた。

「それにしてもおぼっちゃまの所業に困りましたな」
佐川は、弥太郎を睨みつけた。
「あいつは何もしていない」

「はい、はい、そうでございましたね……たしか、下手人は、なんとかというごろつきでございましたね。ただ、調べの最中に、ケンカ沙汰をおこして島送り。殺しの調べもは結局うやむや。まったく、南町で当時奉行をなさっておられた佐川様のこと、下手人を捕らえることも、作ることも造作もないことでしたね」

「何のことを言っているのだ、三吉!あの事は、下手人は、だ。しかし、証がなかったのだ。その最中にケンカ沙汰、島送りにしただけだ」

語気の荒くなった佐川だったが、弥太郎は、気にもせずに話題を元に戻した。

「このところ、玄之進さまが、私のところに金をせびりにきます。もちろん、恩義ある佐川様のご子息さま。もちろん御用立てはしておりますが、こうやって同心どもうろうろしておりますので……」

「みなまで言うな。わかっておる。三吉。それにしても、お前のあの毒で、殺しとわからぬように、あの男を始末したのではなかったのか。」

「見破られぬはずはないと思っておりましたが、北町にも目ききがいるようですな。それより、佐川様、私も、もう少し、店を大きくしとうございます。それに、私の名は弥太郎でございますよ。三吉、もうその名は、捨てましてございます。いや、佐川さまからつけていただいた名ではありませんか」

佐川は、弥太郎、いや、三吉は微笑みながら、平然と言った。
「そんなことは知らぬ。分かっておる!金なら用意しておる」

「いつも、いつもありがとうございます。また、私の毒が入用なときはどうぞ、お申しつけください」

弥太郎こと、三吉は、平伏しながらも、その顔には不気味な笑顔が浮かんでいた。

プロフィール

ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

最新記事
カテゴリ
リンク
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ
FC2 Blog Ranking

検索フォーム
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。