8忍びの累「黒い石の謎編」

その8

もう夏の盛りはすぎ、冷たい秋の風が吹きだした。

樹里亜の事件以来、累は信吾につきまとわれていた。仇討ちを頼まれたとはいえ、樹里亜を殺した者の行方を探ることを、累は躊躇していた。

さて、山賊家業を結衣と五郎に強いるのは信吾も考えたようで、遠い親戚に預け、数人の手下も、堅気の仕事につかせることにしたらしい。

しかし、信吾自身はといえば、街におりてきても、定職にはつかず、ふらふらしていた。それでも、女に貢がせることに長けており、自分の食いぶちには全く困ってないようだった。

「おっいたいた」
累が川辺で寝転がっていると、信吾が話かけてきた。
「おい、そんな所で油売ってていいのか?」

(また、こいつか)
累は横を向いた。

「誰かは知らぬが、こんな虚無僧に何の用だ?」

と、累はとぼけたが、信吾は虚無僧の笠を取り上げた。

「なあ、ちょっと手伝ってくれないか?」
「盗人の手伝いか?なら断る」
「ま、いいから、ちょっとだけだから」
「な、なんなんだ、全く……」
累は引きずられるように、信吾についていった。

その数時間後、累は、旅一座で飛び跳ねていた。

一座の者が怪我をしたということで、助っ人を頼まれたのだ。

一座の看板娘が浪人者に絡まれていたのを信吾が助けたことがきっかけである。その事件の際、娘を守ろうとした役者が足を挫いてしまったのだ。

信吾はすでに男前を買われようで、慣れない芝居をしていた。お粗末な演技ではあったが、本人はいたって楽しそうだ。

「信吾さん、太吉さん、お疲れだったね」

一座の女座長が声をかけた。

累は、ここでは、太吉と名前を偽っていた。

「それにしても座長さんよ、客の入りが今日は少なかったな」

信吾は残念そうに呟いた。

「そりゃ私たちのせいだろ、素人が二人して出てるからな。そろそろ傷も良くなってきたし、暇を貰うとしよう」

「太吉さん、もうちょい、いて下さいな。あんたのとんぼ返りは見た人は凄い、凄い!って言ってるんだから。だから、今まで人気が出たんじゃない!」

女座長は話を続ける。
「ここの二、三日、客が減った。って言うのは、ほら、通りの向こうに見世物小屋が出来たからよ。あそこに人が流れちゃってるのよ。ちょっとあんたたち、見て来てくれない?」

累と信吾は、敵情視察を女座長に頼まれ、その見世物小屋に来たのだった。
しかし、生憎、その日は休演であった。

「何だ、何だ。休みかよ。しゃあねえな、また来るか」
信吾たちを木戸番が呼び止めた。

「おやおや、これはこれは。女座長さんとこの役者さんじゃないですか。舞台を降りてもまあ男前ですなあ」

「お、覚えてくれてたのかい、いや、参ったな。実はおいらたちは助っ人なだけなんだよ。しっかし、男前って、はははこりゃあ参ったね」
木戸番のお世辞を真に受け、信吾は嬉しそうに舞い上がった。
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ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

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