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7忍びの累

その7  樹里亜


五月の空が青い。少し歩いただけで、汗ばむ陽気となった。
累は港にきていた。武器商人の店に下働きに入り、その実情を偵察し、任務は終わった。

(船着場での荷運びの手伝いも、今日で終わりだ)

今回の任務は人との斬り合いもなく、気楽なものであった。港の人足として働く方が性にあってるのではないか?とも思ったほどであった。輝く太陽を仰ぎ、累は久しぶりに自分の顔がほころぶのを感じていた。

「人が落ちたぞ!」

その声に累は素早く反応した。
港の男たちが次々と飛び込むのを見て、自分も海に飛び込んだ。見事な泳ぎっぷり、あっという間に沈みかけていた者を腕をつかんだ。抱え泳ぎをしても、周りの男たちよりも速い。

陸にあがった累たちの元に、みなが駆け寄った。

金色の髪に、透きとおるように白い肌。
瞳を閉じて瀕死の状態でも、美しい女だった。

「このお方は、樹里亜さまだ」
「あぁ異人屋敷の娘……」
船着場の連中がひそひそと噂話をはじめる。

「ううっ」
樹里亜は、息をふきかえした。
供の者が近づいたが、しっかりと累の首筋にしがみついて離れなかった。

「あんたが連れていくしかないね」
累はやっかいなことになった。と思いつつ、樹里亜を抱えた。

かなり大きな異人の女性を抱えても累の腰はふらつくこともなかった。

その姿をみて、また野次馬たちは感嘆の声をあげた。

累は、通称「異人屋敷」の主人、すなわち、樹里亜の年老いた父親に見込まれ、気に入られてしまった。
累は、用心棒のように頼られてしまった。報告は手紙にしたためて終わりとし、もう三日も異人屋敷に滞在していた。

特に、樹里亜にも、すっかり慕われてしまった。

彼女は意外にも、流暢な日本語を話した。

貿易の仕事で、日本にきた主人は、当地が気に入り、供の下働きの者とともに住みついたらしい。樹里亜の母親も呼び寄せたいのが、異国の地で待っている。

しかし、再び、累に忍び仕事が入った。

明日にでも別れを告げようと思っていたその夜のことだった。

累は不審な物音を聞きつけた。
「盗人か?」
累は物音もたてずに自分の寝どころから起き上がり、奥の部屋へとかけだした。
やはり、盗人のようである。部屋の装飾品を物色している。

しかし、累は背の高いその男に見覚えがあった。山賊の頭、結衣と五郎の兄・藤里信吾だった。

信吾は、累に気づいて驚いたが、逃げる気配はなかった。

「また、会ったな」
「こそどろかい?」
「ああ、ここには金目のものがありそうだからな。お前も何か盗むのかい?」

累は苦笑した。

「いや、用心棒として雇われてる。賊なら捕らえねばならんな」

そう言われても、信吾は逃げなかった。

「それにしてもさすがだな。ここの主人の胡散臭さをかぎつけるとは」

「一体何のことだ?俺は、溺れている樹里亜を助けた。その縁でここにいるだけだ。明日にでもここを出ようと思っている」

「嘘だろ」

累には信吾の問いが全くわからなかった。

「ここの異人屋敷の主、貿易稼業は表向き。実は『何かを探し』に、遠いこの異国の地まで来たらしい。それが、どこかにあるかはわからない。だが、この国にあることだけは確からしい。すごい、お宝らしい。おいらとしては、そのお宝、ぜひとも、拝んでみたくてな」

信吾の瞳があやしく光った。

「きゃあー」
樹里亜の悲鳴が聞こえた。
二人はあわてて寝室に向かう。
数人の賊が樹里亜に襲いかかろうとしている。
累は、賊をひきはがした。
が、しかし、賊は発砲した。

「危ない!」
累は樹里亜を抱え、横っ飛びで、弾丸をよけた。

「やはり、ここには、お宝があるってことか」

信吾は、笑みさえ浮かべ、鉄砲を持った賊に体当たりしていった。

鉄砲がはじけとんで、累の元にころがる。
累は急いで拾い上げ、賊に銃口を向けた。

「くそっ、ひけ!」
累と信吾は賊を追いかけたが、闇に彼らは消えていった。

だが、累の目は、自分を見つめる、もう一人の忍び装束の者をとらえていた。木々の陰に隠れてはいたが、累にはそれが誰だがはっきりとわかった。ほどなく、その者も軽い身のこなしで闇夜に溶けた。

「なぜ、ここに?あいつが……」

「おおぉ、」
累のとまどいを引き裂くように、樹里亜の悲鳴が聞こえた。
累たちはふたたび部屋に戻った。

「聞かしてもらおうか?あんた、何を探しているんだ?」

主人が重傷を負っているにもかわらず、信吾が鋭い言葉をあびせる。

「く、黒い……いし……私は、それを手に入れようとしていた。樹里亜、お前は帰りなさい、母さんの所へ。ジュリア、ゴー、ホーム」

「黒い石?それが宝なんだな?」
「黒い…………黒……いち……」

「ち?石ではなく血?なのか?って何だ?おい!はっきりしろ!」

「やめろ!信吾!」

主人はその言葉を残し、息絶えた。樹里亜の嗚咽が部屋に響いた。

樹里亜は母親の元に帰国することとなった。
船着場まで、累は見送りにきた。

「樹里亜……」
累には言うべき言葉が見つからなかった。

累は異国の者がそうするように、そっと樹里亜を抱きしめた。

樹里亜は累に体をあずけたが、すっと離れた。

「お父様を殺した人を見つけて。そして、私の代わりに罰を与えて……お願い……」

「ああ、おいらたち二人、その依頼引き受けたぜ。おめえさんの仇はおいらたちに任せな」

累が口を開こうとするのを遮ったのは、信吾だった。

「お願いします」

潮風が彼女の金色の髪を巻き上げた。







プロフィール

ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

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