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4忍びの累

その4 綾

氷雨が降りそうな夜。累は武家の屋敷の屋根裏に忍び込み、密談を盗み聞いていた。

「曲者だ」
と、叫び声があがった。屋敷内が騒がしくなった。

(自分にぬかりはないはずだ。気づかれた気配はなかったはず……)

累は、動かず、じっと聞き耳をたてた。

「そっちだ。曲者はそっちへ逃げたぞ!」

(やはり、自分ではなかった)
累はそのままじっとしていた。

「くそっ」
「追え!そう遠くには行っていないはずだ」

家来たちの怒声が聞こえる。

「何事だ。騒々しい」
屋敷の主の声もする。

「はい。賊が一人忍びこんでいた様子。手傷を負わせましたが、生憎く取り逃がしました。今から追っ手を差し向けます」

「どうせ、雑魚だ。追わずともよい」
「はっ」

家来は主人の指示に従い退いた。密談相手の客人も帰路につき、屋敷は静かになったのを見計らってから累は屋敷を退散し、その姿は闇に溶けた。

累がねぐらにしている社の堂。

そのぼろぼろに破れた戸を開けようとしたが、一瞬手を止め、息を止めた。

(先客がいるな)

間合いを計り戸を開けた。

と、同時に中から人が刀を振りかざしてきたが、それを予測していた累は難なくそれを交わした。その者は、勢いあまって、地面に転げた。
累はその者を背後から組み伏せ、両手を締め上げる。

(女……くの一か……)

女の手から刀が落ちた。白布を巻いた右腕から血がにじみ出ている。

(なるほど、さっきの屋敷の曲者ってとこか)

「殺すのなら早く殺せ……」
女は強がった。

「殺生は嫌いだ」
累は一言告げた。

女は手をふりほどこうともがいた。

「じたばたするな。よけい痛い。傷口も開く」

「ふっ、なぶり殺しにするのがあんたの趣味か」
と、累に向かってつばを吐いた。

「殺生は嫌いだと言っただろ。殺しなどせん」

とうとう、氷雨が降り出した。

「濡れると着物を乾かすのが面倒だ」

累は、背後から両腕を羽交い絞めにしたままで、女忍びを立ち上がらせ、堂の中に引き入れた。

「この傷は、先刻屋敷でうけた刀傷だな」

「!」
女は驚いたように累を見つめ、ようやく体の力を抜いた。

累は女から手を離した。
女は、小走りで奥に逃げた。体を低くし、短刀を構えた。

「これを傷口に塗っておけ」
累は、塗り薬らしき物と新しい布を奥に放った。
累は外に出て女の刀を拾い、それも放り投げた。

「お前何者だ?……味方か?」

累は何も答えなかった。女はとまどいながらも、刀を引き寄せ、薬を塗り、布を巻き変えた。

雨音が激しさを増している。

無言に耐え兼ねたように、女が口を開いた。

「さっきはすまなかった。つばなど吐いたりして本当に悪かった」
女は頭を下げた。

「あんたも忍びだろ?私を助けたってことは見方だよな?これは、ひょっとして噂に聞く伊賀の秘薬か?」

累は女の問いに答えることはなかった

女はまたしても口を閉ざすしかなかった。

無言の時が流れた。
雨音が少し弱くなった。

「世話になった。私は綾。」
礼をいい出て行こうとする綾を累は止めた。

「今、外に出るのはまずい」
「追っ手か?」

緊迫した面持ちで、綾は刀を握りしめ、堂の扉を見つめた。

「さあな」

累は、外の様子を推し量るかのように静かに目を閉じた。
またしても雨音が強くなってきた。

「……5人か」

激しい雨の音しか綾は聞こえなかった。

「なぜそれがわかる?」

綾は、疑問を口にしながら、刀を構えて、戸に近づいた。

「やめとけ」
「なぜだ。5人ぐらいなら斬れる。あんたが殺生が嫌いでも私は斬る!斬らなきゃ殺られる!」

「吠えるなよ。それにお前の利き腕はまだ力が入らないはずだ」


堂の戸が開いた。

しかし、五人の追っ手が見た時、そこはもぬけの空だった。

「くっ?どこへ行った?」
「ここではなかったか?」
「この雨だ。どちらにしてもそう遠くへは行っていないはずだ。探せ」

この声を堂の下で、累と綾は聞いていた。


声と足音が遠ざかっていった。
「これ、あんたが細工しておいたのか?」
「ああ」
「殺生は嫌いってことか?」
「ああ」

また無言の時が過ぎた。ふとるのが綾を見ると、刀を握り締めたまま座って眠っていた。その視線に気がついたように綾が目を覚まし、累と目があった。綾はあわてて横を向いた。

「手傷を負った女を襲うような趣味はない」

綾は聞こえないふりをした。

夜明けが来た。雨は止んではいたが、霧深い朝だった。

「借りができたな」
「別に返さなくていい」
「では」
「では」

二人の姿は川霧に消えていった。

プロフィール

ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

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