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3忍びの累

その3 美緒

累は忍びの働きを終え、飯屋で一服していた。

(今晩の宿はどこにしようか)

野宿をするには寒い。しかも、今日は夕焼けがやけに美しい。こんな日は、ことさら冷える。できれば屋根のあるところで眠りたい。

累が思案していると、人相の悪い男が一人、入ってきた。
と、同時に、母親の手伝いをしていた男の子が、びくりとして柱の陰に隠れた。
その男は、飯を頼む風もなく、店の奥までずかずかと入っていった。

「美緒、金を用立ててくれないか?」

女主人に向かって、粘着質な声を発した。

「ありません。あなたに渡すお金などありません。帰ってくれませんか」

「なにぃ、亭主に渡す金がないだと。儲けた金があるだろ」

と、その男は、先の客が置いて行った茶代をつかみとった。

「返してください。それに、あなたなど、亭主でもなんでもありません」

二人がもみ合う内に、土瓶の湯がひっくり返り、じゅわっと湯気をたてた。

はねた湯が累の顔にぷちっとはねた。

「大の男が、女相手に、吠えるなよ」

累は顔をぬぐった。

「ふっ、俺に喧嘩売ろうってのか」
「ちょっと、お客さんに手だすのはやめてください」

男は、止める美緒を突き飛ばし、累に殴り殴りかかってきた。累はその拳をつかかみ、腕を捻った。

「痛っ、いたたた。離してくれ」

しかし、累は余計に力を入れた。

「美緒、なんとか言えよ!」

「帰って下さい」

「分かった。帰る、帰るから、いたたた」

累は腕を離してやった。男は捨て台詞を吐きながら去った。

「すみません、お見苦しいところをお見せしてしまいました。痛っ」

美緒は突き飛ばされた時に腕に擦り傷を負っていた。

「手当てをしよう」

累は、懐から白布をだして、美緒の腕に巻きつけた。

「すみません……」
「おじちゃん、泊まっていって」
「こら太郎、そんなことを言っては、ご迷惑ですよ」
「だって、また、あの人来るかも。怖いよ」

太郎は、あの男をおびえているようだった。累は厚かましいとは思いつつ、ありがたく申し出をうけることにした。


隣の部屋で、美緒は太郎を寝かせつけているようだ。昔話をしている。
それが、聞くともなく累の耳に入ってきた。
どうやら「ももたろう」の話のようだ。
「どんぶらこ~どんぶらこ~」お馴染みの語り。

「どんぶらこ、どんぶらこ」と、繰り返す美緒と太郎の声に累は気持ちが和んだ。屋根や布団の温かみ以上のぬくもりを感じた。

「……ももたろうはおにをたいじして、おにのたからをもってかえりましたとさ。めでたし、めでたし」

美緒の語りが終わると同時に、太郎の寝息も聞こえてきた。
累も同じように眠りについた。


「がるるるるるるうううう・・・ぐるるるる・・しゅうううううう」累は夢を見ていた。

(また、あの夢だ)

累は夢の中で、もがいていた。

月の光のような冷たい獣のようなの目。
真っ赤に裂けた口。
毛だらけの腕。
そして、異臭。

何者かはわからないが、まがまがしいものということだけが伝わってくる。
累は刀で応戦する。
しかし、毎回刀は空を斬るだけ。

そして裂けた口がもっと大きく開かれ、累の肩を食い破った。

がばっと、起きた。

(また同じ夢)

ぐしょりとした汗が着物にまとわりついていた。

「だいぶ、うなされたご様子でしたよ。さぁ、何もないけれど、朝餉を召し上がってくださいな」
「おじちゃん、はい」

眩しい朝の光。美緒のすがすがしい声と太郎の屈託のない声に、累の悪夢は薄れていった。

「では、ありがたく、馳走になります」

「さようなら」
手をふる太郎に背を向け、累は飯屋を後にした。


プロフィール

ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

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