5爆弾魔を捕縛せよ!

新八丁堀の七人
その八 爆弾魔を捕縛せよ!

「ひゃー、ふってきちゃったよ、ふられちゃったよ、弥生さん!」

不審火の聞き込みは、一向にらちがあかなかった。今日は出先で雨に降られ、八兵衛は、早々に同心長屋に帰って来た。

「え?誰を振ってきたんですか?振られたって、一体誰に告白されたんですか?したんですか?」
目をつり上げて、弥生が出迎えた。

「誰?え?告白?雨だよ。雨が降ってきたって言ったんだよ。濡れてしまったんだよ。すまない、新しい手拭い出してもらえないかな」

「あー、雨。そ、そうね。八兵衛さんは振られたり、振ったりなんてことはないわ」

弥生は恥ずかしい勘違いにあわてながら、首を振る。

「ぶつぶつ言ってないで、手拭い出してよ、弥生さん、畳にしずくが落ちちまう」

「はい、おとっつぁん」

と、手拭いを差しだしたのはおやいだった。

「おやい、来てたのか!」

「はい、弥生さんのお手伝いをしに来たんです」

「長旅だったろう、よく数馬さまが許してくれたな」

おやいはある事件をきっかけに八兵衛らとともに暮らしていた。
数馬はおやいの実の父親である。十年以上も前のことになるだろうか。実の父親が見つかり、おやいはこの家を出て行っ
た。
おやいがいた数年、八兵衛とおやい、弥生は親子のように家族のように互いに打ち解けていた。

「ずいぶん、大きくなったな。もう、どこにでも嫁にいけるな」
おやいは、八兵衛には眩しいくらいに美しく成長していた。

「そうね、じゃあ、ここに。おとっつあんの所にお嫁にこようかしら?」

「なんですって!」
「なんだって!」

弥生と八兵衛は同時に大声を出した。

「八兵衛さんみたいな親父はだめです。おやい、あなたには、もっとふさわしい人がいますよ」

弥生が大慌てで、おやいを八兵衛から引き離した。

「嫌だ。弥生先生、冗談なのに、慌てちゃって」

「あ、慌ててなんかいませんよ。この人が冗談を真に受けるかもしれませんからね。さあ、おやい、私の手伝いは大丈夫ですよ。父上の元に帰りなさい」

「えーー!来たばっかりなのに。あ、わかった。弥生先生、ひょっとしたら私に焼き餅焼いてる?」

「や、焼いてませんよ。焼くもんですか!た、ただね、八兵衛さんがね、ほら、間違い……を、しでかしたら、大変でしょ」

「間違い?まちがい?何を間違うって言うんだ、弥生さん、聞きづてならねえよ。仮にも、私はおやいを娘だと思ってだね!血こそ繋がらないが、私は今でもおやいを娘だと思ってる」

おやいの冗談に、少しときめいたことを隠しながらも、八兵衛は強い剣幕で弥生に迫った。

「ほほほ、私のも、冗談よ、冗談。……そう、そう、手拭いだったわね……」

「弥生さん、手拭いならおやいに貰ったよ、おい、弥生さん!」

弥生は逃げるようにその場を去った。

「もう、弥生さんにも困っちまうな」
頭を拭いながら八兵衛はつぶやいた。

「まだ水原弥生のままだなんて……いい加減、仏田弥生にしてあげなよ」

おやいはため息をつき、あわせるように、八兵衛もため息をついた。

「弥生さん、仏田弥生って言ってたんだよ、水杯は三三九度だって言ってたし、あと、あん時も……この前も。でもなんかダメになるんだよな。良いとこまで行くのに、いつでもなんか、ヘソ曲げちまうんだよ」
八兵衛が小さくつぶやいた。

「早くお嫁にしないと、弥生さん、おばあちゃんになっちゃうよ」
「あ、おやい、いかん、そのおばあちゃんって言葉は言ったらダメだ!」

八兵衛の制止は遅かった。おやいの言葉を弥生が聞き咎めた。

部屋の中はふいに暗くなり、雷鳴も轟いた。

「『ババアになる前に、嫁に来い』だなんて、そんな失礼なことを言う人の元になんて嫁ぎませんよ!」

「ひぃー」
ぬぅと出てきた弥生におやいは悲鳴をあげた。

「まさか、おとっつあん!」
「こ、この前な、そう言ったら、こんな風に弥生さん、怒っちまって」

またしても、雷鳴が轟いた。

弥生はありったけの手拭いをぶつけた。
「ひゃー、弥生さん、ごめんなさい。弥生さんは、ババアになんかなりません。わーーー」

「あらら、また、夫婦喧嘩?仲の良いこと」

吉岡源吾が覗き見してのつぶやきに
「どこが!」
と、八兵衛と弥生は大声を張り上げた。
プロフィール

ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

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