生存編2八丁堀の七人

千代田のお城の奥の奥1

隠密同心編


七人は門の中へと入った。

八兵衛は聞く。
「青山様、それで、ここに入ったはいいんですが、ご存知なんですか?上様のいる場所」
「知りゃぁしねえよ、ただ、千代田のお城の奥の奥にいると思っただけでィ」
「えーーーーーーー!」
「ど、どういうことですか?あんなに格好つけて出てきたのに!」
孫右衛門と磯貝が不満をもらす。
「まぁ、そう言うなって、そのうち迎えが来るとは思うがナ」
「そもそも何で門が開いたんでしょうか?私は、実はまさか開くとは思ってもみなかったんです」
八兵衛は素朴な疑問をぶつけた。
「ま、あせるナって、ほら見ねェ。その答えが、来たようだな」
青山画が指差す先に、家臣たちが歩いてくるのが見える。

「北山奉行所与力青山久蔵と、同心六名、こちらに」
七人は、奥へと案内された。
一郎太と兵助は緊張しながらも、城の奥へと案内されて、顔が高潮している。
「すげえ、こんなの見たことない」
「ああ、そうだな」
磯貝は、何やら触って、それを落として壊してしまったようだ。
あわてて、元に戻して、しらんぷりしている。

七人は、一室に案内された。
「上様の御前である。しかるべき物に着替えるように」
着替えにあたふたしながらも、七人はそれなりの格好になった。
「ひょっとしたら、白装束かと思ってたがな」
磯貝が言うが、その顔はどことなくにやけている。
「私なんて、生きた心地しませんでした。てっきり、その場でお手内になると思ってましたから」
と、孫右衛門。
「こんないい衣装を着られるだなんて、ほんと思ってもみなかった」
と、源吾。
「最初で最期ってこったな。ま、明日には良くて白装束。ま、悪くて川原に首が転がっているさ。今のうちに喜んでおくこった」

青山の言葉に、うかれていた者たちは萎れた。

「用意はできたか、刻限だ。入れ」


目の前に上様がいる。平伏しながら、八兵衛は、脂汗が出て、鼓動が早くなってきた。手も震えている。ふと横を見るが、青山は汗すらかいていない。
(まったく、心の臓に毛が生えるにしても、生えすぎですよ。青山様は!)
八兵衛はそう思ったら、ふっと肩の力が抜けた。
「苦しゅうない。面を上げい」
あれが将軍が……自分が将軍様に面会できるとは……
八兵衛は、到底、現実のこととは思えなかった。
「何事だ。この真夜中に。北町の町方ふぜいが、何用じゃ」
青山は懐から訴状を取り出した。家臣が取り次ぎ、将軍に手渡った。
「死罪と知った上での直訴か?」
「はい」
青山が、じっと将軍を見据えて言う。
将軍派、訴状を読み、立ち上がった。
「あいわかった。戸田若狭守の処遇、追って沙汰いたす。そなたたちの処遇も、明日には出る。即刻立ち去るが良い」

「戸田若狭守様の処遇、今、この場で、聞いて帰りたく存じます」
青山が口を開いた。
「青山、口が過ぎるぞ。上様の御前で何を申すか、さぁ、立て!」

「私とこの6人の命など、もうないものと思うております。」
「ほほう。ならば、この場で早速、そちの首、もらいうけよう」
将軍はおもむろに刀を抜き、青山に切先を向ける。
「しかし!」
青山の声がひときわ高くなった。

「例え、この場で、屍になろうとも、この私利私欲の悪行三昧への結末、聞いておかねば、この魂、この場を動くわけにはまいりませぬ!」

「何が、なにゆえそこまでして……」

八兵衛が思い切って口を開く。
「ただ、江戸の町の民のため、つつましく暮らす民のため、この悪行を正すことができるのは、上様一人にございます。どうか、お聞き届け下さい」
「お願いします」
口々にお願いしますの声が響く。
「扱いにくい奴らと聞いてはいたが、これほどまでとは。わかった。魂がこの場に残るかどうか、試してみるのも面白いな」

刃が降り上げられた。

八兵衛が、はっとして、口を開いた。
「上様は、ひょっとして一連の火付け事件の一部始終を、ご存知だったのではありませんか?正直私は門が開くとは思いませんでした。知っておられたからこそ、私たちのようなものを、この場にお招きくだされたのではありませんか?」

ふと、将軍の口元がゆるんだ。
「ふっ、賢い部下を持ったものだな、青山。若狭守には切腹の沙汰を下す。そして、そなたたちは……」

「黙ってこの首、差し出す所存」
青山が即答する。
「いや、首などいらぬ。命のすべてを差し出してもらう。青山久蔵以下、八丁堀同心六名、今宵、この場から、この家慶の直々の配下とする」

青山と八兵衛以外は、ぱっと顔を輝かせる。

八兵衛は、つぶやく。
「死して屍拾うものなし」

「そういうことだ。そなたたちには、今宵から隠密同心の任務を与える。そなたたちはこの場で死んだ。八丁堀同心としての身分はたった今、消えたのだ」

「すべてを捨てる覚悟はできておりまする。過去など必要ありませぬ」
その声にはっとする5人。
「青山、鋭いな。しかし、それは死よりも残酷かもしれぬぞ」
「生きながらにして、死ぬことなど、たやすいこと」
「言うたな、青山、しっかり励めよ!」

平伏する七人の前から将軍は去っていった。

第1回終わり
-------------------------------------

次回予告

隠密同心となった七人。江戸城内でお手内となり、死んだことにされた七人は、過去を捨て去るのは死ぬことよりも辛いことを痛感する。

かげながら、弥生のことを案じる八兵衛。八兵衛の影を追い求める弥生。
二人が再会する日は、もう永遠にこないのか……

千代田のお城の奥の奥1
プロフィール

ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

最新記事
カテゴリ
リンク
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ
FC2 Blog Ranking

検索フォーム
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR