その三 少年と盗賊 

八丁堀の七人 少年と盗賊

その三

八兵衛は、屋敷の片隅で、くしゅん、と、小さなくしゃみを漏らした。
仏田八兵衛、北町奉行所同心である。

「あら八兵衛さん、風邪引いた?」
弥生が、目ざとくかけよってきた。
水原弥生、お産に骨接ぎと、何でもこなす女医である。

この二人、夫婦ではない。
由縁あって同居しているが、その元々の理由すら忘れるくらいもう長く一緒に暮らしていた。
六年か七年は経つだろうか。
お互い憎からず思ってはいるものの、お互いの気持ちを言葉にしたことはなかった。
これからも一緒になることはなく、ずっと同居人として暮らしていく。
そんな漠然とした雰囲気が二人の間に流れていた。

「いや、なんか甘いもんが、急に食べたくなってさ。あんこ餅とかないかな?きな粉餅でもいいんだけどな」
「そんなものはありません」
「昨日、弥生さん、夜遅くに食べてたじゃない?もう残ってないの?」
「残っていようがいまいが、あれは私のお餅です。私が稼いでそれで買ったお餅なんですもの。八兵衛さんにあげるお餅はありません」

実は、弥生は八兵衛と一緒に食べようと思って八兵衛の帰宅を待ちに待っていたのだ。
しかし、深夜酔いつぶれて帰ってきて、餅なんかは見向きもしなかった八兵衛に対して弥生は、むくれているのだった。

「何よ、餅のことだけは覚えてたのね」
弥生は八兵衛に聞かれないように毒づいた。

「えー、ケチ」
そんな弥生の気持ちは露しらず、八兵衛は、つい、口を滑らせた。
「なんですって、私のどこがケチなのよ!」

待ってたの。一緒に食べようと思って待ってたのよ。
とは言えない弥生である。

「わー、ぶたないで、ぶたないで」

弥生の攻撃から逃れるため、八兵衛は屋敷から逃げ出すのだった。

小説 八丁堀の七人
プロフィール

ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

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