その七 少年と盗賊

八丁堀の七人 少年と盗賊

その七

亀吉は、また団子屋の前で様子を伺っていた。前とは違う店である。
店の主人が奥に引っ込んだ隙に、裏口の小窓から、団子に手を伸ばした。
が、団子を掴む前にその手首を握られてしまった。一郎太だった。
一郎太はそのままで
「親父、団子二つな」
と、注文し、団子を一本頬張ると、もう一本は、亀吉に渡した。
「手、離せよ」
「この前みたいに、逃げられたら困るからなあ」
「逃げないよ。追いかけられてもないし、団子も取ってないし」
亀吉は不敵な笑みを浮かべた。
ただ、団子には口をつけなかった。
一郎太も握った手を離さなかった。

「店かえたのに、何故?って顔してるな」
「何のこと?」
とぼけたが、あて推量にしろ、その理由が知りたかった。

「なあに、簡単なこと。道沿いに食い物が出てること、主人はひとり、度々奥に引っ込んだりする耳の遠い年寄りなこと。人通りの少ない時刻、物陰が多い角がある所。裏に、小窓があること。」
「ふっ、盗む気持ちになって考えたんだな」
そう言ってから、亀吉は、しまったと思ったが、一郎太は、そんな言葉には気づかないふりで、店主に声をかけ、店の中に入っていく。

「おい、こっちに来てみな」
一郎太は、亀吉を引っ張った。
「なんだよ。おいら、何にもしてないのに。謝ることもないよ」

そこでは、年寄りの店主が、団子の仕込みをするところだった。
慣れた手つきで、団子を丸めていた。
腰を屈めているのが、きつそうにみえた。
一郎太は、何も言わず、眺めているだけだったが、その背中に向けて小さくつぶやいた。
「私は、商家の出なんだ。だから大なり小なり、商いの大変さがわかるんだ」
少年も殊勝な顔で黙ってみていた。

「お兄ちゃん、どうしたの?」
鶴吉が通りから声をかけてきた。そして、兄が手にしている団子を目にするなり、かけよってきた。
「お団子だ!」
兄は団子を弟にやり、あわてて、一郎太を指差した。
「この人が買ってくれたんだ。鶴吉、早く行け。こっから出るぞ」
「ありがとう」
「いいから、ほら!」
二人は、店を出た。
「弟にやるつもりでお前は食べなかったんだな。あ、じゃあ、お前、えっと……」
「亀吉」
亀吉は、渋々、名乗った。

亀吉に、再び、団子を差し出し、一郎太は微笑んだ。
終始笑顔な一郎太に亀吉は戸惑うばかりだった。
が、また脱兎のごとく走って行った。
プロフィール

ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

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