その二 兵助、怒りの鉄拳! 

その二

「旦那、旦那、松井の旦那!」
岡っ引の徳松が走って来るのがみえた。

「どうした!徳松!」
「旦那、河原に仏さんが……」
「何!」
徳松は、場所を伝えるのもそこそこに、「奉行所の皆にも知らせてきます」と言い、また一目散に駆け出していった。

河原には、もう野次馬が集まっていた。
一足早く、仏田八兵衛と古川一郎太の二人の同心が検分に到着していた。

「殺しですか?」
兵助に気づいて、八兵衛の顔色が変わった。

「兵助、お前は見ないほうが、いいかもしれん」
と、八兵衛は目を伏せ、一度は、兵助の肩を静かに掴んで遠ざけようとした。
「いや、でも、お前も同心の端くれだ。覚悟して拝めよ」
そう言って、兵助の目をまっすぐにみつめた。

「え?八兵衛さん?一体、何言ってんですか?どういうことですか?」
いぶかしく思いながら、兵助はその亡骸の顔を見た。

「お、叔父上?」
兵助は一瞬自分の目を疑った。しかし、そこには、叔父、原田誠之助が横たわっていた。
殴られたのか、それとも、何かにぶつけられたのだろうか、顔には、青いあざが点々と浮かんでいた。

「叔父上ーー、な、なんてこと。叔父上、叔父上、目を覚ましてください!叔父上ーーー」
叔父の遺体にすがりつき、兵助は絶叫した。

取り乱す兵助をみて、一郎太の目にも涙が浮かんだ。身内の死に取り乱すなという方がおかしい。だが、一郎太は、絞り出すようにして声をかけた。

「兵助さん……、落ち着いてください。しっかりしてください」
「バカやろう。これが、落ち着いていられるか!何でだよ!どうしてだよ。何で、こんなところで叔父上が死んでるんだよ!」
兵助は、思わず一郎太のむなぐらを掴んでゆすった。
一郎太は、その腕を離そうともせずされるままになっていた。兵助の悲しみと怒りを全身で受け止めてやった。
その目をみて、兵助はやっと自分を取り戻した。
「すまん、一郎太」

「叔父上の原田誠之助は、行方知れずになってそれっきりでした。姿が消えたのは、7年ぐらい前になります。こんな姿で会うなんて」
そういって、兵助は言葉を詰まらせた。
「とても優しい叔父上だった。そして、正義感にあふれた叔父上だった。六人兄弟の末っ子で、原田家に養子に行っても、同心としてよく手柄を立てていました。その手柄話をする時は、父母も、そして、奉行である一番上の叔父も誇らしげだった。私が同心を目指したのは、この誠之助叔父みたいになりたかったからです」

兵助は一気にまくしたてた。

「そうか、でも、この7年の間、お前の知らない誠之助の人生がこの間にあったのかもしれないなぁ」
怒りと悲しみでいっぱいの兵助に対して、八兵衛は、冷静に言った。

「兵助さん、私たちにできることは、誠之助さんがどうしてこういう亡くなり方をしたのか調べることだけです」
「ああ、今は、それしかないかもしれんな。よし、一緒に行こう、一郎太!」

……今は、探索に専念するんだ。
気持ちを封じ込めるように、兵助は、そう、自分に命じた。
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ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

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