その六 兵助、怒りの鉄拳!

その六

その頃、八兵衛は、弥生堂にいた。
誠之助の遺体は、八兵衛の機転で、水原弥生のところに一旦預けたのだった。

水原弥生は、青山久蔵への勘違いの恨みを持っていた。そして、八兵衛を監視するべく、八兵衛の家に転がり込んだのだった。しかし、誤解が解けた後も、同居が続いていた。
骨接ぎが専門の弥生だが、近隣の者からも「弥生先生、弥生先生」と頼られ慕われ、お産もこなす弥生であった。
居候ではあったが、「弥生堂」の看板は八兵衛の表札よりも大きかった。そのことからも、弥生のたくましさが伺えることだった。

弥生堂。
そこには、もう一人の頼もしい青年がいた。

長崎で医学を学んでいる市之丞が帰省していたのである。
市之丞は、青山久蔵の一人息子である。
青山の実家に寄るのもそこそこに、弥生のところに駆けつけたのである。

「これは、毒によるものです。毒を飲まされたためにこの斑点が出たのです。これは殴られたり、転んだりしてついたものではありません」
と、市之丞は言った。
「今、薬の勉強をしているのです。そこで、いろいろ学んでいます」
市之丞は、また、力を込めて言った。

「市之丞さまがいてくれて助かったわ。私にも、そうじゃないかと思ったけれどわからなかったもの」
弥生がためいきをついた。

「毒か……」
八兵衛も、また、深くため息をついた。
一体、誠之助は誰に毒を盛られたのだろうか……。と。

「おとっつあん」
と、襖が開いた。

おやいである。
「また、御奉行所に帰るんでしょ。おにぎり、こしらえておいたわ。少しおなかに入れていったら?弥生先生も、市之丞さまもどうぞ」
「そりゃあ、ありがてぇ。おやい、おめぇも、いろいろ忙しいのに、すまねぇな」

おやいは、ある事件をきっかけに、これまた八兵衛の元で居候しているのである。
おやいは、八兵衛を父親のように慕い、また、八兵衛もおやいのことを娘のように感じていた。

「ほんと、おやいは、気がきくねぇ」
八兵衛は、何の気なしにそう言ったが、弥生が少しむくれた。
「ええ、私は、気がききませんからねぇ」

八兵衛は目をむいた。ほおばっていた握り飯が吹き出そうになった。
「や、弥生さん、『おやいは気がきくねぇ』って言っただけだよ。別に、弥生さんが気がきかないって言ったわけじゃないのに……、何を怒ってるんだよ」
「怒ってません」
「怒ってるじゃないか」
「もう、さっさと、奉行所に行ってください」
「わ、わかったよ」

弥生はそっぽを向いた。
八兵衛をおやいと市之丞だけが見送った。

弥生もまた、おやいを娘のように感じていたが、八兵衛を慕う者として、おやいに、時々いらだったのだ。
他のものがみれば、それはすぐに、『嫉妬』と知れる感情であった。
しかし、弥生だけが、そのことには気づいていなかった。いや、気づいていても、弥生自身は認めたくない感情だった。



原作・Answer警視庁検証捜査官第5話「謎の墜落死!? 娘を二度失った母…!!」
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Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
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八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

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