その八 兵助、怒りの鉄拳!

その八

いろいろと訪ね歩いてみたものの、これといった手がかりはみつからなかった。
兵助は、心底疲れてしまい、一人、池のほとりで佇んでしまっていた。
「一体、何やってるんだ。しっかりしろ、俺!」
兵助は自分を鼓舞するように、両手で頬を叩いた。


「ちょっと来い、兵助」
非番なのか、青山がとくりを下げて、兵助の前にぶらりと現れた。
どこへ行くのかと思ったが、着いたところは、青山の屋敷であった。
「何ですか?青山様。私は、まだ、探索の途中です。青山様みたいに暇じゃないんですよ」
兵助は口を尖らせた。

「はっはっはっは」
青山は、豪快に笑った。
「とか、いいながら、ずいぶんと、たそがれてたじゃねぇか」
兵助は、図星を指されて、返す言葉がなかった。

「ちょっと、二日酔いでな。酒を抜くのを手伝ってくれないか」
青山は木刀を兵助の前に放ってよこした。
兵助は、黙って木刀を受け取り、構えた。

「かかってこい。兵助」
兵助は、何度も青山に向かったが、かわされるだけである。
そのうちに、きびしい一手が、兵助の肩に打ち込まれた。
そして、次々に、脛に、腕に、腹にと、食い込んだ。

……二日酔いとかいいながら、このおっさん、いつもながらに強い。
そういえば、六人で、稽古をつけてもらったときがあった。
しかし、誰一人として、青山に打ち込めた者はいなかった。


青山の屋敷を覗いた八兵衛はあわてた。

「な、何をしてるんです。青山様、兵助!あ、青山様!兵助はこのところの探索で疲れてるんです。
『休ませてやってくれ』と、お願いに来たところだったんですよ」

八兵衛は倒れた兵助をかばいながら、青山に懇願した。
「いいんです。八兵衛さん」
「ああ、どいてろよ。八兵衛」

とまどいながらも、八兵衛は黙って二人を見守った。

地面に膝をつき息のあがる兵助に、涼しい顔をして青山が言った。
「だらしがねえなぁ。頭も動かず、体も動かないんじゃ、どうしようもないな、兵助」
「まだまだです。青山様」

兵助は、その昔、叔父の誠之助とやっとうの稽古をしたことを思い出していた。

「兵助、お前は余計な力が入りすぎてるな。もっと、肩の力を抜け。」
「力を込めないと、強く打てません!」
誠之助は笑いながらも、兵助の相手をしてくれた。

不意に、青山の顔が誠之助に重なる。
兵助の体から、すっと力が抜けた。
青山の隙がちらっとみえた。
一歩踏み出し、木刀を打ち下ろす。
青山が、それを斜めに受けた。

「ふっ、やっと、体が動くようになったのかい。おいらも、汗が出て、酒が抜けてきたぜい。」
青山は、兵助に背を向け、自分は屋敷の方へ向かっていく。

一礼した兵助に、青山は、足だけを止め、振り向きもせずにつぶやいた。

「下手人を追ってるのは、お前だけじゃねぇ。一人であせってたって、どうしようもねえぜぇ。ちったぁ、仲間を……」

そう言いかけて、青山は口つぐんだ。
「いや、なんでもねぇ。汗かいたぜぃ。着替えてこよう」
飄々とした態度で、青山はさっさと屋敷の中へと入ってしまった。

兵助は、屋敷に向かってもう一度深く頭を下げ、そして、八兵衛に向かって笑顔をみせた。

「私は、まだまだ大丈夫です。若いですから」
その晴れ晴れとした顔をみて、八兵衛もうなづいた。

プロフィール

ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

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