最終話その十六 兵助、怒りの鉄拳!

最終話
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画 しりゅう


その十六

小春日和の穏やかな日だった。

兵助と八兵衛は連れ立って、原田誠之助の墓参りに来ていた。
墓の前にはたくさんの花が活けられていた。活けきれずに、墓のまわりにも手向けられた花が、所狭しと並んでいた。それは、多くの人々が、誠之助を偲びに来ていたことを物語っていた。

現に、誠之助の前で事件の報告を話している間にも、南町の同心仲間だったという者、誠之助に世話になったという町人らが、手桶を持ち花を持ち、墓参りにやって来ていたのだった。

「誠之助は、やっぱり、皆に慕われていたのだな」
「はい。私の信じていた通りの人だったんだ。そう今でも思っています」
兵助は笑顔で立ち上がった。
「じゃぁ、八兵衛さん、私はこれから、原田の家に行って、この事件のことを誠之助の母君にお伝えしてきます」

事件は、玄之進の切腹で幕が下りていた。

兵助のその後ろ姿には、悲しみと怒りを抱えつつも、事件を解決したという一つの安堵感が醸し出ていた。
八兵衛には、兵助のその背中が、いつもより大きくみえた。

「あいつも、一端の同心になったなぁ」
八兵衛は、兵助を見送ってから、もう一度、また手を合わせた。

その八兵衛の肩を叩いた者がいた。
青山だった。
「よう、八兵衛」
「青山様も、お墓参りに来てくださったんですね」
「ああ」

青山も、感慨深げに手を合わしたが、すぐにくだけた調子になった。
「ああ、一件終わって、飲みたい気分だなぁ。なぁ、八、墓参りはそれぐらいにして、飲みにいかねぇか?」

「こんなまっ昼間っから、酒ですか?」
「いいじゃねえか。別に、昼飲もうと夜飲もうと。飲みたい気分の時に、飲むのが、いいんじゃねえか」
「いっつも、いぃ~~つも飲んでばっかり!青山様は『飲みたくない気分』ってのは、ないんですか?」
「ないねぇ~。全然、ないねぇ」
八兵衛は、こりゃダメだという顔しながら、ふと思い出したことがあった。

「あ、そういや、兵助に稽古つけてた時、青山様、仲間がどうこう言ってたじゃないですか。あれは、何を言おうとしてたんですか?」
「え?そんなこと言ってたか?忘れたぜい」
「まさか、まさかぁとは思いますが、『仲間を信じろ』。とかなんとか格好いいこと言おうとしたんじゃないですか?まぁ、青山様がそんな優しい言葉をかけるとは、さらっさら思えませんがね」

「……」
すぐに言葉を返すかと思いきや、青山が黙った。
八兵衛は、青山の顔をじっと見入った。
「あ、あれ~?照れてるんですか?図星、図星ですか~。あら~、こらぁ、赤い雪が降るかもしれない」
「何、ばかなこと言ってんだ。おいらは、いつも優しい言葉をかけてるじゃねえか。現に、今だって、酒飲みに行こうって、誘ってるじゃねえかよ」

「ご自分が飲みたいだけでしょ。そういうのは、別に優しかない。ですよ。酒なら、一人で行ってください」
八兵衛は、青山に背を向け、一人すたすたと歩きだした。
「八よ~~なぁ、八っつぁん~~」
青山が、のんき気な声を出した。
「なんですか、その気の抜けるような声は!鬼与力・青山久蔵の声とは思えませんよ!」

二人の声が、山間の静かな墓地にこだました。



江戸の町では、北町の同心たちが、今日も忙しく立ち回っていた。

吉岡源吾は、茶屋の娘にまとわりついている。聞き込みではなく、どうやらくどいているらしい。

磯貝総十郎は、お偉方の後を手もみしながらついていく。上昇志向の強さは相変わらずである。

花田孫右衛門は、証文に目を通しつつも、こっそりと内職の爪楊枝を取り出した。

古川一郎太は、道でころんだ男の子を抱き起こして、ほこりを払ってやっている。

兵助が、原田の家を辞去するところに、徳松が現れた。またしても事件のようである。


兵助と徳松は、連れ立って走りだしていく……。



                 完



※イラスト しりゅう様(2013年賀状より♪)
プロフィール

ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

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