1騙された総十郎

その1
磯貝総十郎はにやけていた。

一膳飯屋のおかみに文をもらったというのだ。

八丁堀の同心たちは皆、磯貝の様子を、遠巻きにみていた。

「いつも仏頂面で不機嫌で愚痴ばっかり言ってる磯貝さんも嫌ですけど」

「あれは、あれで、不気味ですな」
古川一郎太と吉岡源吾が顔を近づけてこそこそ話す。

「まあ、いいじゃありませんか、ねえ、孫さん」
仏田八兵衛の言葉に花田孫右衛門は何も言わず、二回ほど頷き微笑んだ。

「いいことないですよ!」
兵助は書類をまとめながら憮然とした顔つきだ。
「女絡みの磯貝さんの事件一体何件あったと思ってるんですか」

「あれと、あれと」
「あれもありましたね」
またしても、一郎太と源吾がにやけながら指を折る。

「もう、磯貝神輿は担ぎたくないですよ!」
松井兵助の声に、手紙を読んでいた磯貝が顔をあげた。

「御輿か……、祭りに誘うのもいいな。今、祭りといってもやってないし。そうだ!縁日に誘ってみるか!」
磯貝の様子に皆あきれ顔である。

そんな呑気な同心たちだったが、与力の青山久蔵が部屋に入ってくると、皆の顔がひきしまった。

「なんだ、磯貝、そのにやけた面は」
磯貝は、文をあわてて懐におさめた。

「怪盗・猫目石の手掛かりは掴めたのかい?」
「いえ、それが、とんとわかりません……」
八兵衛はうなだれた。

「大店しか狙わず、盗んだ金は貧しい長屋に配る」
「音もたてずに忍び込み、殺しもせず」
「残り香のする猫の絵だけが置いてある」
と、一郎太、孫右衛門、兵助が言い、
「ちまたでは、女鼠小僧だと大騒ぎ!」
源吾が何故か嬉しそうに告げた。

「女だろうが、義賊だろうが、盗人は盗人だ。八丁堀の名にかけても捕まえる。な、磯貝。そうだろ」

「は、はい……」
磯貝も神妙な顔でうなづいた。
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ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

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