1狙われた看板娘

八丁堀の七人「狙われた看板娘」
その1

 都々逸を歌い、羽織の袂を左右にはためかせて、北町奉行所同心・吉岡源吾は通りを歩いていた。その目元は垂れ、口元はいつも以上にゆるんでいる。

 源吾の顔立ちは、女医・水原弥生の言葉を借りて一言で言えば、「馬面」である。悲しいかな、女からもてはやされることはあまりなかったが、源吾自体は女好きであった。

同僚からは、「ちょい惚れ源吾」と、あまりありがたくない呼称がついていたが、本人はどこ吹く風である。今日も、ちょい惚れた女の顔を見ようといそいそと、女が勤める店~つる屋~に急いでいるのであった。

 つる屋の女将・お駒は、小さな弁当屋を開いていたが、彼女の才覚から店は繁盛し、手狭になった店を閉め、少し大きな店を持ったのだ。板前など、人も多く雇い、やっていた仕出しも販路を拡大し、商売を広げていた。

店には、お駒のほかにも、器量良しがたくさんいた。その中でも看板娘として、お雪がいた。

お雪は、大店の娘であったが、他のところで働くのも好い修行だと、両親が、お駒に預けていた。お雪は、働き者で、客あしらいもうまく、これまた器量良し。娘達の力もあって、またまたお駒の店は大繁盛。お駒は、「支店も出そうかしら?」などと、また商売を広げようと考えていた。

源吾はそのお雪にぞっこんなのであった。

テーマ : 時代劇
ジャンル : テレビ・ラジオ

2狙われた看板娘



 そのお雪は、店の前を掃除していた。
「おゆきちゃん♪」
 
 源吾が声をかけると、道行く男達も次々と声をかけていく。
「お雪ちゃん、今日もいい天気だね」
「お雪さん、また今日は一段とべっぴんだな」

 お雪は、愛想をふりまきながらも、かいがいしく働いていた。店の戸の桟を拭いたり、~甘酒あります~と、店の前に張り紙をしたり、大忙しである。

「お雪ちゃん、字も上手いね~。甘酒、後で飲みに来るからね♪」

 源吾はもっとしゃべっていたいと思ったが、忙しく働くお雪の手を止めてはいけない。と、思い直した。

「お雪ちゃん、また、後で寄るから。きっと寄るから。」
「あ、はい、ありがとうございます。」
 
 お雪の笑顔に後ろ髪を引かれながらも、源吾は顔をにやつかせて奉行所へと急いだ

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3狙われた看板娘


源吾は、北町奉行所の同心部屋に入るとすぐ、松井兵助をひっつかまえ、耳元で囁いた。

「えー恋文の代筆!」
兵助は大声をあげた。源吾は慌てて、「しー」とひとさし指を口にあてたが、時すでに遅し。同心たちの目は一斉に源吾に集中した。

「なんで、俺が、そんなことをしなきゃならないんですか?」
憤る兵助をなだめすかせるように、源吾は頼む。

「だから、言ったろ。恋敵が多いんだよ、そいつらを出し抜くためには、ここは、一つ、知性で勝負しなきゃ、なんねえんだ」

「全然、答えになってません!」
兵助はあきれたように首をふるが、源吾は、更に食い下がる。

「だから、お前は、頭がいいし、文字もきれいだ。お願いだから、力を貸してくれよう。あ、一郎太、お、お前も手伝ってくれ。な、な。そのお前の若い力を俺に貸してくれないか」
源吾は、ばれたら仕方ないとでも言うように、古川一郎太にも話の矛先を向けた。

「え?ぼ、僕は、恋とか、愛とか、全然わかんないから、お、お役に立つことはできないと、お、思います」
一郎太は、顔をひきつかせながら、手を顔の前で振った。

そんな三人のやりとりを、横目でみながら、花田孫右衛門は、内職の楊枝作りに励み、磯貝総十郎は、「また源吾のやつ、ふられるくせになぁ」と仏田八兵衛に声をかけた。

「まぁ、人を好きになるのは、まぁ、人として当然のことだし、まぁ、いいじゃないすか。わたしたちは、まぁ、見守ってあげましょうや」
八兵衛は、ほほえましく三人を見て茶をすすった。

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4狙われた看板娘



 同心六名が騒いでいるなかに、背の高い男が現れた。与力の青山久蔵である。
「何、しゃべってるんだ。男が顔つき合わせて。囲炉裏端でのんきなもんだな。おい」

青山の登場に、皆一斉に口をつぐみ、居ずまいを正した。

「今、商家を荒らしている、盗人一味、『はやぶさ』の頭でもしょっぴいて来ようっていう根性のある奴はいねえのかぃ?」

この男、人呼んで北町の『剃刀の久蔵』盗賊たちからはもちろんのこと。また、奉行所内でも、恐れられている男である。

「はい。その件につきましては、今、鋭意探索中でありまして。しかし、何分手がかりは、紙切れ一枚でありまして……」
磯貝がしどろもどろに答える。

「『はやぶさ』などと気取りやがって」
と、青山が舌打ちをした。

「鼠小僧のまねでしょうかね……」
と、孫右衛門がお尋ね書きを差し出した。しかし、そこには、似顔絵はない。
「金も盗んで行くが、大事な雇人も盗んで行くそうです。肝になる雇人が消えてしまうそうなのです。残されているのは、『はやぶさ』という紙切れだけ」

「盗人は、大概、『引き込み』といって、自分の仲間を店に忍ばせて、押し入るものだが、どういうことだ」青山が首をひねる。

「仲間にひきいれるのが上手い。つまりは、よほど、口が上手いのでしょうな。あははは」
磯貝総十郎が笑ったが、皆、空気の読めない総十郎にひきつった。
案の定、青山は扇子で総十郎の額を打った。

「笑ってる暇があったら、さっさと、市中に聞き込みにいきやがれ」

「はい!行ってまいります」
いつもなら、青山の人使いの荒さにむっとしながら、しぶしぶ出かけていく源吾なのだが、今日は違った。

「はいはい、仕事も一生懸命ですよ。では、探索に行ってまいります。でも、その途中に、飯ぐらい食べるのはいいですよね。食わなきゃ力でませんからぁ」
飄々とかわし、行ってしまったのである。

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5狙われた看板娘



 源吾がいちばんに目指すのは、もちろん、つる屋である。
 その店の前で、なにやら、お雪が、道場着を来た女に文句をつけられているようだった。

「今から、稽古なのに、こんなに濡れてしまったわ!」
「すみません」

お雪は、よそ見をしていて、うっかり、水をかけてしまったのだ。

源吾が駆け寄ろうとしたが、その女は急ぎ足で立ち去った。

「ひどい奴だなぁ。でも、お雪ちゃんは悪くないよぅ」
「いいえ、私がぼんやりしていたからいけないんです」

 道行く男たちが、またしても、次々と、声をかけていく。
 
 大工の政吉もお雪に声をかけた。
「お雪ちゃん、よそ見していたら、だめだよ」
「あ、すみません」
お雪は、恥ずかしそうに頬を染め、源吾は、そんな二人をあせりの目で見つめるのだった。

その様子を、働き手の一人であるおみつも暗い目をしてみつめていた。

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プロフィール

ひらたま@でんぷん

Author:ひらたま@でんぷん
山口県在住 
女性(若くないです)
O型、蠍座
八丁堀の七人と、子連れ狼の大五郎が好き

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